伝熱

前回の記事は,おそらく理学系ではベタベタのジョークで〆てしまいました.超弦理論(この呼び名のほうがしっくりきますね)の非専門家向けの解説としては,The Elegant Universeがお勧めです.(観られない場合はYoutubeあたりで検索してください.)もっとも,これを観て超弦理論の研究者になろうなどと考えないでくださいね.

少し調べればわかることですが,超弦理論は非常に難しい数学の理論(紹介した動画にも少しだけ出てきます)を理解した上で,物理学の理論的結果を出さなければならないため,相当頭が良い人でなければ超弦理論の基礎すら理解できずに終わります.

研究分野が超弦理論に限らず,博士学生というのは,取り立てて大きな結果があるわけでもないのに,往々にして研究に情熱を燃やしていたりします.もっとも,博士課程では研究に従事するので,研究に情熱を燃やしていない方がむしろ問題と言えるでしょう.研究者としてやっていけるように頑張ろうとするのです.選民思想の入り口でもあります.

ポスドクもそうです.薄給だろうがパートタイムだろうが,最初はアカデミックポストを得ようと情熱を燃やしているのです.

しかし,情熱は往々にして冷めるんです.

冷める理由はいろいろありますが,このブログで何度も話題にしている通り,給与や不安定な雇用形態は大きな要因になります.27歳にもなって大卒初任給程度も貰えず,国民年金(や,学生ローン)の支払いすらままならない状況が続くのです.

大学院生の間は熱が冷めにくいのですが,それはそういう支払いに頭を悩ませる必要がないことがあります.学生ローンの返済はまだどころか借りられる立場ですし,国民年金も学生納付特例制度があるので,とりあえず先送りができます.また,上限はありますが,基本的には望めば学生を続けられるので,どんなに貧しくても「一寸先は闇」という状況にはないのです.ポスドクになって初めて,薄給や雇用の不安定さをひしひしと感じ,研究熱が覚めてしまうのです.その一方で,博士号取得者の就職難など何度も聞いていますから,熱が冷めても研究をなかなかやめられない状況が続きがちなのです.

研究環境も大きな要因になります.このサイトからリンクもしている「ポスドク転職物語」はダメ研究室が舞台のフィクションでした.このフィクションはそれでもマシな方で,世の中にはひどいPI(研究室主催者)などいくらでもおり,とりわけ実験系では研究環境はPIに大きく左右されます.理論系の場合は放置が基本なので,それほど大きな影響はないのですが,ディスカッション相手になってくれないとか,サバティカルでそもそも研究室に長い間来ないなどということも少なくありません.(理論系ではディスカッションや情報交換は重要なのです.)

大学院の研究室選びに失敗した場合は,ご自分の調査不足を恨んで就職すればよいです.しかし,ポスドクは悲惨です.前回の記事で述べたようにポスドクは職場を選べません.熱が冷めるどころか,精神すらまともに保てなくなるかもしれません.

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